夕焼けの海

青木 繁「夕焼けの海」
1910年(明治43年)油彩、キャンバス、40.5×51.0cm

初秋の唐津湾の夕焼けは、素晴らしい。折しも太陽が沈み、空が橙黄に染まり、その上を朱紅に映えた雲がなびいている。それが海面に反映し、壮麗である。 海には、帆船と遠景の船のシルエットが美しい姿を浮かび上がらせる。寄り添う小舟に、石炭を積み替えているのだろうか、ほのかな潮の香りが流れている様である。晩年特有の細かい筆致で、哀愁をも感じられる。
父の死、芸術上の焦燥感、不摂生よる胸の病を深めていた青木は、1910年(明治43年)8月、静養かたがた唐津へ写生旅行に向かう。9月、浜辺の旅館で人生最後の精力を燃焼させ、数点の絵を制作する。その中の一点である。
私は、「夕焼けの海」が絶筆だと思っています。 (河村 栄三)